高齢者のための漢方診療:高いレベルで漢方を学ぶ

最近は漢方を処方されている方が多く、漢方薬について最低限の知識は知っておきたいと手に取りました。

著者は漢方医3名で、代表の岩崎鋼(いわさきこう)氏は東北大学で長く臨床と研究に従事していました。
本書は高齢者に用いる漢方診療について初学者向けに解説したものです。

アウトサイダーの漢方医
岩崎氏は90年に東北大学を卒業し、内科系を専攻して博士号を取りました。
その後、大学に残って漢方の研究を重ね、現在は老健施設に勤務しています。
漢方研究の権威の一人であり、かつては東洋医学会の重鎮としても活躍していました。
しかしガラパゴス化している日本漢方を憂い、歯に衣着せぬ物言いで問題提起したことから疎まれて学会を離れたことが「あとがき」で記されていました。
他に同じ東北大学の同僚で鍼灸に通暁する高山氏、プロローグを担当した岩田健太郎氏らも執筆に加わっていました。

医師向けの漢方マニュアルから誕生
本書は2015年に出版された「老年医学会ガイドライン内の漢方編の補足」という位置付けになっています。
内容は前編に総論として漢方医学の歴史と理論を概観し、後半に各論として高齢者に多い疾患に用いる方剤を解説していました。
疾患は、認知症、便秘、誤嚥性肺炎、食欲不振、風邪、腸炎、疼痛、泌尿器疾患、免疫低下、不眠などです。

総ページ数は140ページ程度と、決して長いものではありません。
しかし著者は膨大な知見を積み重ね血肉にしていることが伺え、シンプルで明快な説明は小気味よく興味深いものでした。

「脾腎両虚といっても腎を扱うのは難しいので、まず脾から補えば良い。
臨床でも脾胃が不可逆的に損なわれたら、寿命とするのがふさわしいと感じる。」

「六経の順番は太陽、陽明、少陽が基本となる。
少陽と陽明を置き換えたのは後世の漢方医で、伝統に沿ったものではない。」

などは含蓄のある言葉だと思いました。
想像した以上に読み応えがあり、うれしい誤算でした。