大切なものを1つだけ

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待ち遠しかった休日が巡ってきて、読みたかった本を手に取りました。
伊集院静さんの旅のエッセイです。
他の誰かの紀行文は、自分もそこを旅していることを夢想したり、読みながら次の旅の候補地を探したりと楽しみながら読んでいます。

その中にあったスペインの画家の話が心の琴線に触れました。
第二次大戦中、ナチスに追われながら家族で国を飛び出す決心をするという話です。
危険が迫り、慌しく身支度する中でその画家は妻に言いました。
「お互いに大切なものを1つだけ持っていこう」
妻はうなずき、彼女は一番大切な「娘」を抱きました。
画家自身は多くの作品の中からこれから創作する一枚のラフ絵を選びました。
立派なアトリエとたくさんのモノに囲まれた生活の中でも、結局彼らにとって価値あるものとは家族と、明日の仕事だったようです。
このシンプルな選択は心に響きました。

振り返って「自分だったら何を選ぶか」と考えた時、鍼道具のことが浮かびました。
小さなケースに入った10cm程度の棒が5本ですが、私の治療を支えてくれる大切な道具です。
一般的な鍼は使い捨てなのでメーカーに依存し続けなければならないのが嫌で、鍼灸師なのに鍼を刺されるのが好きではなかったことから少しずつ刺さない方に移行して、今ではすっかり刺す方は使わなくなりました。
多分ずっとこの道具を使い続けるのだろうなと思っています。

引越すたびにモノを減らしていき、身の回りのモノの数はあまり多くはありません。
画家の夫婦が選んだ二つのうち、一つは手に入りそうにないのですが、この道具を手にした旅するハリの方はこれからも続いていきそうです。

大切なものを1つだけ。
何を選びますか?