体中の痛みとたくさんのクスリ

TH_LIFA102
80代の女性が来室されました。
既にご高齢なので、症状は腰や膝などあちこちが痛いので、痛みを抑えながらメンテナンス目的で2週間に一度の割合で治療しています。

大きく体調を崩すことはないのですが、それでも少しずつ不定愁訴のような症状が増えてきて、これらが必ずしも「年だから」で片付けられないような気がして困惑しています。
それは服用している薬がだんだん増えていることです。
「お薬手帳」を拝見しましたが、今の時点でおよそ10種類のクスリを飲んでおられました。
痛み止めなど重複している分がありますが、次のようなグループのものです。

1.神経痛:メチコバール(ビタミンB12)等
2.痛み止め:モービック、ロキソニン
3.胃腸薬:ムコスタ
4.抗生物質
5.咳止め:リン酸コデイン
6.鼻水:抗ヒスタミン
7.便秘:マグミット
8.貧血:鉄分のタブレット
9.高脂血症薬:スタチン系のプロバスタチン
10.降圧剤:カルシウムチャンネル拮抗薬
11.降圧利尿剤
12.抗血液凝固剤:ワーファリン
・・・
これらを食事などのたびに几帳面に飲んでいるのです。
クスリはそれぞれ一定割合で副作用を起こす可能性があります。
この方の病状は継続的に観察していますので、副作用ではないかと思うことが多々ありました。

たとえば、患者さんはずっと足腰は元気だったのにある時から急にこむらがえりになり、力が入らなくなったといわれました。
その時期はちょうど9の高脂血症としてスタチン系のクスリを飲むようになった時です。
このクスリは時に筋肉を破壊する横紋筋融解症を引き起こすことが報告されています。
この時、血液検査で筋肉破壊された時に生じるCK(クレアチンキナーゼ)を確認すればわかるはずで、その後も処方されているので大丈夫だと思うのですが。

またこの方は歯医者でも治らない歯茎の肥大痛で二ヶ月苦しめられていて、このことはカルシウムチャンネル拮抗薬の副作用の可能性が頭によぎりました。

また痛み止めが複数出ていることも驚かされました。
痛み止めは痛みを起こすプロスタグランジンという物質が作られないように働くのですが、プロスタグランジンは胃粘膜も保護してくれるので、長期の使用で胃潰瘍を引き起こすことが分かっています。
胃薬のムコスタを処方しているのは胃潰瘍を防ぐためだと思うのですが、漫然と処方され続けていることに疑問を感じます。

そして合間に風邪を訴えたために、風邪の症状に効く抗生物質、咳止め、鼻水止めのクスリを処方されていますが、これらのクスリは症状を弱めるだけで、風邪そのものには効果がありません。
勤めをされていて症状を抑える必要がある時など飲む価値はあると思うのですが、家にいることの多い独居の高齢者に必要はなさそうな気がします。
特に抗生物質は風邪の原因となるウイルスには無効で、副作用として先ほどの筋肉を溶かす横紋筋融解症や白血球である顆粒球を破壊する可能性もあることから、近年処方を控えるような通達が出ているのになぜなのかという思いはあります。
また咳止め薬のリン酸コデインは有名な副作用に便秘があり、このクスリと便秘薬マグミットがあわせて処方されていることは先ほどの痛み止めと胃腸薬同様に、クスリによるマッチポンプのような印象を受けました。

私が学生時代に学んだ薬学の先生は、クスリは少なくとも5種類までの処方に抑えなければならない、と教えてくれました。
それ以上の服用は、ヒトの体が様々な臓器や血管、神経、酵素が複雑に絡み合って作用する複雑系で、その効果と影響を予測するのが難しく、予想外の副作用が生じる可能性があるからです。
たとえば先に挙げたプロスタグランジンは胃粘膜保護にも関わるなど複数の働きを持ち、これらは体内で連絡をとるホルモン、化学反応を助ける酵素などが複雑な機序で生じるもので、ヒトが辛うじてわかっているのはその機能の一部に過ぎません。
また全ての薬で起こる副作用としてスティーブンス・ジョンソン症候群があります。
これは薬を飲んで突然起こる原因不明のアレルギーショックで、初め風邪のような発熱や咽の痛みから始まり、唇の炎症、皮膚の発赤、そして全身の火傷様症状、眼球炎症による失明、内臓も爛れるなど、早急にステロイドを使わなければ命に関わる深刻な後遺症の危険があります。

クスリはとても大切なもので、例えばステロイドは命に関わるような炎症や蜂に刺されたときのショック症状を抑えてくれるので緊急時になくてはならないものですし、抗生物質は感染症から助かる道を示してくれました。
しかしこの方のような漫然とたくさんのクスリを飲ませるような安易な処方には疑問を感じずにはいられません。

この方の鍼灸治療では、気の滞りはアチコチに出て、はっきりとはしませんでした。
それでも1つ1つ治療点を取っていくと、今ある痛みは取れました。
ただし歯茎の腫れはもう1月も続いていて、気になっています。
できれば原因の可能性がある降圧剤薬を一時的でも止めてみて欲しいのですが、私の立場ではそうしたアドバイスができないのが悩ましいところです。

こうした分野については最近本が色々出ていますので、興味がありましたら次のようなものをご覧になってみて下さい。